東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)867号 判決 1969年11月28日
主文
一、被告人田中岩男、同斉藤憲治、同小林仁、同三栖靖久、同小沼修を各懲役一年八月に、同清野拓良を懲役一年六月に、同大沢道博を懲役一年四月にそれぞれ処する。
二、未決勾留日数中、被告人田中岩男については二六〇日、同斉藤憲治、同小林仁については各二四〇日、同三栖靖久、同小沼修については各二〇〇日、同清野拓良については三〇日、同大沢道博については五〇日をそれぞれの刑に算入する。
三、この裁判確定の日から被告人小沼修については四年間、同大沢道博については三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
四、訴訟費用中、証人有松喜一郎、同斉藤定治に支給した分は被告人斉藤憲治の、証人土屋忠夫に支給した分は被告人三栖靖久の、証人橋口敬太に支給した分は被告人小沼修の、証人布谷定道に支給した分は被告人清野拓良の、証人川島一洋に支給した分は被告人大沢道博の、その余の証人(ただし、証人田中昭、同阿部長雄、同馬籠英夫を除く)に支給した分はその各九分の一を各被告人の負担とする。
理由
(罪となる事実)
被告人ら七名は、
第一 昭和四四年一月一七日ころから翌一八日午前七時ころまでの間、多数の学生らが東京都文京区本郷七丁目三番一号所在東京大学大講堂(通称安田講堂という。同講堂は前方後円形の鉄筋コンクリート造りレンガ張りの建物である。その主要部は四階建で西側中央部に九階建の時計台があり、その両側が五階建になつている。その三階西側中央部に正面玄関が設けられている。)において、同講堂の占拠者の排除を行なおうとする警察官らに対し、共同して投石、殴打などの暴行を加える目的をもつて、多数の石・コンクリート塊、鉄パイプ、角材、火炎びん等を同講堂要所に配置準備して集結した際、右目的をもつて、右兇器の準備あることを知つてこれに加わり、
第二 安田講堂を管理する同大学学長事務取扱(総長代行)加藤一郎が、同講堂を占拠する学生らに対し、直ちに同大学構外へ退去するよう同月一七日午後一一時ころ要求したことを遅くとも翌一八日午前八時すぎころまでに知つたにもかかわらず、多数の学生らと共謀して、その要求に応ぜず同月一九日午後に至るまで同講堂内にとどまり、もつて故なく退去せず、
第三 多数の学生らと共謀のうえ、同月一八日午前八時三〇分ころから翌一九日午後三時すぎころまでの間、安田講堂内の不法占拠者を排除、検挙する任務に従事中の警視庁第四、第五、第七、第八機動隊所属の警察官らに対し、同講堂の四階五階および九階の屋上から、および各階階段付近で多数の石・コンクリート塊、火炎びん等を投げつけ、また同講堂内各階階段附近で鉄パイプ、角材により刺突するなどの暴行を加え、もつて右警察官らの右職務の執行を妨害した
ものである。
(証拠の標目。なお、付記のアラビア数字は甲一検察官請求証拠目録の請求番号を示す。)
被告人ら七名に対する関係で
一、司法警察員内田尚孝作成の検証調書(謄本(2))、捜索差押調書(謄本(4))
一、司法警察員前田健治作成の検証調書(謄本(3))
一、司法警察員五十嵐甲子郎作成の実況見分調書(謄本(5))
一、押収してあるフィルム七巻(昭和四四年押第一、三一五号の一、二、三、五、六、七、八、〔(9)、(13)、(17)、(25)、(28)、(32)、(36)〕)および第二回公判調書中の証人八木啓夫、同山口富久男、同佐藤隆一、同須川哲男の各供述部分
一、司法巡査富沢周二(54)、同須川哲男(56)、同今正廣(60)、司法警察員青木淑郎(62)、同倉富康典(70)、各作成にかかる写真撮影報告書(謄本)五通
一、証人赤瀬滋、同樋口良樹、同平野勝利の当公判廷における各供述
一、証人三谷光生、同横田勝利、同川畑義隆、同真壁瑛、同佐藤正八郎の当公判廷における各供述ならびに島崎克己、長谷川幸吉共同作成の昭和四四年二月三日付(84)、同月六日付(78)同月一〇付(80)各鑑定書(謄本)および長谷川幸吉作成の鑑定書(謄本(86))
一、田中健(二通)、村井隆(三通)、太等信行(三通)の検察官に対する各供述調書(謄本)
一、証人横山陽三の第五回、第七回公判における各供述および押収してある録音テープ一巻(前同押号の一〇)
一、証人高田宏、同米田寿郎、同三上仁一の当公判廷における各供述
被告人田中岩男に対する関係で
一、逮捕番号本富士一五三号の男の併列写真一葉
被告人斉藤憲治に対する関係で
一、証人有松喜一郎の当公判廷における供述
一、逮捕番号本富士一五七号の男の併列写真一葉
被告人小林仁に対する関係で
一、逮捕番号本富士六一号の男の併列写真一葉
被告人清野拓良に対する関係で
一、証人布谷定道の当公判廷における供述
一、逮捕番号二九一号の男の併列写真一葉
一、被告人清野拓良の検察官に対する供述調書二通
被告人大沢道博に対する関係で
一、証人川島一洋の当公判廷における供述
一、逮捕番号本富士一一号の男の併列写真一葉
一、被告人大沢道博の検察官に対する供述調書
被告人小沼修に対する関係で
一、証人橋口敬太の当公判廷における供述
一、逮捕番号本富士八四号の男の併列写真一葉
一、被告人小沼修の検察官に対する供述調書三通
被告人三栖靖久に対する関係で
一、証人土屋忠夫の当公判廷における供述
一、逮捕番号本富士二一五号の男の併列写真一葉
(法令の適用等)
一罰条と量刑
被告人ら七名の判示第一の所為は刑法二〇八条ノ二・一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に各該当し(各懲役刑選択)、判示第二の所為は刑法六〇条、一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号に各該当する(各懲役刑選択)。また判示第三の所為は刑法六〇条、九五条一項に各該当する(各懲役刑選択)。そして右の判示第一、第二、第三の各罪は刑法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により右の各罪のうち最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で犯情により各被告人に対しそれぞれ主文第一項の刑を量定し、なお各被告人につき刑法二一条を適用して主文第二項のとおり各末決勾留日数を右各本刑に算入する。
なお被告人大沢道博、同小沼修については、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、刑法二五条一項により主文第三項のとおり、この裁判確定の日からそれぞれの期間その刑の執行を猶予することとする。
二量刑事情
1犯行の動機。証拠の標目の項に記載した諸証拠とくに証人横山陽三の証言と東京大学出版会東大問題資料2によるとつぎの事情が認められる。すなわち、東京大学の管理方法をめぐる大学当局と学生との間の紛争は、昭和四三年六月学生による安田講堂占拠と警察官導入によるその排除を機に、全学的かつ深刻なものとなつた。講堂は学生らに再占拠され、全学の各学部で無期限ストライキ決議が相次ぎ、大学はその機能を全く停止するに至つた。東京大学総長代行加藤一郎は、この紛争解決のため全学集会を提案し、大学側の基本的見解を学生らに提示し、精力的な努力を重ねた。学生側においても、留年と入試のタイムリミットが接近するに伴い、ようやく紛争収拾への動きがたかまつてきた。しかしこれと共に、学生側内部の派閥による対立抗争もまた激化した。学生の間には全学共闘会議(全共闘)と民主化行動委員会(民青)の二つの派闘が政治セクトの対立に対応して存在し、お互に学生に対する主導権を争つていたが、前者が紛争の収拾に反対したのに対し、後者は加藤代行の提案に応ずる方針をとり、いよいよ激しく反目抗争したのである。しかし一般に学生らの間では、紛争を終らせようとする意見が次第に大勢を占め、昭和四四年一月一〇日には、大学当局と紛争終結を願う学生らとの間に集会が催され、学内問題解決に関しいわゆる一〇項目確認書(別紙一)が成立した。これによると、全共闘がかねて大学当局に要求していた事項(いわゆる七項目要求、別紙二)の大部分を大学当局が承認する結果となり、これと前後して各学部の学生は相次いでストライキを解除するに至つた。しかし全共闘はあくまでも大学当局と抗争する方針を変えず、学内建物の封鎖を続け、これを実力で解除しようとする民青との間に大規模な武力衝突を生ずる形態となつた。すなわち両派の学外の同調者は一月一四日頃から続々と東大構内に入り兇器を搬入し大学建物を占拠し、大学は戦場の様相を呈しその荒廃は頂点に達した。加藤代行は両派に対し一月一五日衝突阻止を訴え、同月一七日学外への退去を求めた。民青は学内から退去したが、全共闘はこれに応ぜず、安田講堂等の占拠をつづけ、大学当局の警察官導入を予期し、これと徹底的に抗戦するため、部隊編成をした占拠学生らの守備分担を定め、同講堂内の備品、施設等を破壊利用してバリケードを強化し、おびただしいコンクリート塊・石塊・鉄パイプ・角材・火炎びん硫酸等を準備し、警察官との闘争方法を占拠学生らの間に周知徹底させた。ことここに至つて、大学当局は、大学管理上やむなく、同月一八・一九日警察官を導入して安田講堂等を占拠する全共闘の学生らを排除した。別紙一と二とを対比すれば明かなように、大学当局が学生らの要求のほとんどすべてを承認したのに、なおかつ全共闘は抗争の態度を変えなかつたのであるが、その理由として東大全共闘経済大学院闘争委員会「炎で描く変革の論理」には次の趣旨の記載がある。『七項目要求は、学生の正当な自治活動を弾圧する処分制度に表現されている大学内支配―被支配関係の原理的否定であり、国家権力と大学権力との癒着関係に発する弾圧体制の否定である。われわれの要求の原点は権力者―非権力者関係の廃棄にあり、大学当局が七項目要求のうち六項目半のんだとしても、残りの0.5に実はわれわれの原点がある。それは現行大学秩序固守を前提としては受け入れられる筈のものではなく、東大闘争の継続は権力、もろもろの権力を統括するものとしての国家、資本による賃労働の支配搾取を保障する国家、への徹底的抗争を不可避とする。権力を打倒するには武力闘争によるほかない。大学本部占拠はわれわれが最早国家権力の管理下に抑圧されはしないとするわれわれの思念の象徴である。また神聖不可侵な東大入試がたとえ一年でも中止となれば、それは権力の権威の基盤に動揺を与える。』と。
被告人らはいずれも東京大学の学生ではないが、安田講堂の右応援占拠学生らの一員として判示のとおりの各犯行をなしたものである。その講堂占拠と警察官への抵抗に関する意識の深浅には相当の格差があつたであろう。しかし、いずれにしても被告人らが前記のような全共闘の思想に共鳴して安田講堂に入り「非道な権力に抵抗する。」との意図の下に本件犯行を敢てしたものであることは明かである。
2動機に対する裁判所の判断。このような考えに基く行動は、大学の自治の枠を超えた政治活動である。一般に反体制運動といわれるこのような現象については、いろいろの角度から評価できる。あるいは、世界的規模で各国の若人が示しているところの、現代都市文明の人間疎外に対する反抗の一局面であり性急未熟ではあつてもしかしヒューマニズムに根源する精神の一状況だという者もあろう。またある者は、政治セクトの傀儡が情勢判断を誤つた指導の下に盲滅法にエネルギーを蕩盡している病理現象だと評するかも知れない。しかし思想の自由を保障し信条の如何により差別することを認めない現行憲法の下では、裁判所は政治的行動の法的評価に当り、被告人らの犯行の動機となつた政治的信条や思想如何をその刑責を定めるに当つて反映させることはしない。被告人らが、かりに前記のような信条とは全く異なる信条のもとに本件と同様な違法行為をした場合でもその刑責に差異はない。本件において、大学当局の態度と学内情勢とが前記のとおりである以上前記のような被告人らの犯行の動機は、私慾に基く犯行ではないという点で有利な情状として評価されるにとどまる。
3犯行の態様。証拠の標目掲記の諸証拠によれば、被告人らは約三百数十名の者と共謀して、その主観的意図を暴力で実現しようとしてもはや問答無用という態度をとり、警察官の出動がほぼ確実と予想されるに至るやかえつてその戦闘態勢を強化し加藤代行の退去要求を全く無視し、不法占拠者の排除という公務を行なつている警察官に対し高所から人間の頭大の石、コンクリート塊、火焔びんなどを多数投下したり硫酸をかける等し、警察官らの生命・身体に著しい脅威場合によつては死を結果するかも知れない暴行を平然として加えたもので、犯行の規模、計画性、危険性からみて極めて悪質といわなくてはならない。但し、被告人らは本件犯罪の主謀者または指導者であつたとは認められない。
4犯行後の態度。2に述べたように、裁判所は「思想・信条それ自体」の当否にかかわることをせず専ら「行動」に対しそれが憲法秩序の下で違法かどうかを判断することを任務としている。このように、裁判所のなす判断の対象に限界を設け、裁判所の法的判断に絶対の拘束力を与えると共に裁判所に違法と判断されない範囲内において個人の自由を最大限に保障しようというのが現行憲法秩序のあり方である。しかるに被告人らは、自らの抱く政治的信条の正当性の確認を裁判の対象とすることを求めるという現行憲法に照して全く根拠のない見当ちがいの要求をし、「統一公判要求」の名の下になすこの要求が裁判所にいれられないと知るや、出廷拒否その他の方法で裁判を受けること自体を拒否する行動をとつて現在に至つている。この行動は、ただちに被告人らは全く反省の念がないというにとどまらず、自ら主観的に正義と信ずるところを、裁判所に否定された後において相手かまわず所嫌わず実力で貫徹しようとするものであつて、憲法の定める法の支配と思想的寛容とに正面から挑戦する行為として法的に厳しく負の評価を与えられなくてはならない。なお被告人らのうちには、未決勾留日数が相当期間にわたつている者のあることも考慮しなくてはならない。けれどもその原因は主として被告人らの裁判拒否というかたくなな態度にあり、しかもこの期間の経過により自己の非行に対する反省の色が被告人らに生じたとは認められない。
5犯行の社会に与えた影響。被告人らの行為が世人に対し社会の欠陥に眼を向けさせる刺激の一つとなつたこと、ことに大学の制度と運営の現状に対する根本的な反省を生じさせる原因となつたことは争えない。しかしその反面、主観的な願望を性急に暴力で実現しようとし、そのためには自己と同じく自由なるべき他人の迷惑を意に介しないで直接行動に出、また人類が長い歴史の過程を経てようやく礎いた財産を安易に破壊して省みないという、社会の法的安定性にとつて極めて有害な風潮をあおつたこともまた否み得ない。
6刑の執行猶予の可否について。裁判所は以上の諸事情をふまえ、被告人ら個々人の特殊事情を検討して、各被告人の量刑を定めるのであるが、特に前記3、4の事情によれば、被告人らの刑の執行を猶予することは原則として相当でない。しかし、被告人らが未だ若く可塑性があり前科もないこと、本件犯行は被告人らが集団心理に動かされて盲進した面もあること等に鑑み、被告人個々人の事情を検討した結果、犯行への加功内容から見て刑責の著しく軽微な者もしくは再犯の可能性のないことが本人の心境または本人を取り巻く客観的事情により高度の蓋然性を以つて認めうる者があれば、その者に対しては特にその刑の執行を猶予するのが相当であると考える。そこで各被告人に右猶予の事情があるかどうかを検討する。
(一) 被告人大沢道博については、同被告人の検察官調書によると、同人は安田講堂占拠の模様を一度見てみたいという気持もあり一月一七日午後九時頃安田講堂に入り、本件犯行に加わつたものであるが、その加功の内容は一月一八日、一九日の両日とも、同講堂内二階北側寮務係の部屋のバリケードが破られた場合の守備にそなえて、同室に待機していたもので直接投石するなどの暴行をしたものではないことが認められ、また同被告人の実父大沢宣直が当裁判所宛て送付した書簡によると、同被告人は本件の裁判が終り次第郷里に帰り就職して真面目に働き再出発したいとの心境であり、その日を待ち望んでいること、家族も同被告人を暖かい気持で受入れ、その将来を見守つてゆこうとしているなどの事情が認められるのであつて、これらの諸事情からすると、同被告人は今後家族の暖かい助言指導の下に自ら合法的な生活を礎いてゆくであろうと認められる。
(二) 被告人小沼修については、同被告人の父小沼敦は勤めのかたわら熱心に本件審理を傍聴し、今後も同被告人に対してその自覚を促すため指導助言に力を尽すことが期待され、被告人もまたその指導に応ずることが予想されるうえに、小沼敦の証言によると、昨年結婚した被告人の妻が事件後初産し、被告人は一児の父親としての自己の家庭における立場と責任とを理解し始めている様子がうかがわれ、これらの事情によれば、同被告人は、投石の回数は多少多いにしても、今後本件のような軽卒な行動を再び繰り返さない蓋然性が極めて高いと認められる。
(三) その余の被告人らについて、その負うべき刑責が他共犯者と較べ特に軽微であると認めるに足る証拠は当公判廷に顕われていない。被告人らの態度が前述のとおりである以上、被告人ら自身のみが提出しうる有利な証拠を獲得する途は閉されている。また父兄の証言あるいは証拠として取り調べた当裁判所宛て書簡等によつてもいまだ被告人らについて再犯のおそれのないことが高度の蓋然性を以つて期待される状況にあるとは認められないのである。これらの被告人については、その刑の執行を猶予することは相当でない。
三訴訟費用の負担
訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文第四項のとおり定める。よつて主文のとおり判決する。(岡垣勲 須田賢 渡辺達夫は、東京地方裁判所裁判官の職務代行を免ぜられたため署名押印することができない。)
<別紙一>
一九六九年一月一〇日の七学部集会
(七学部「団交」)における確認書
一、医学部処分について
1 大学当局は次の点を認め、この処分が白紙撤回されたものであることを再確認する。
(1) 日本の医療制度をめぐつて、医学教育及び医師研修制度の改革を要求した医学部学生の運動に対して、その処分が妨害的役割を果し、その結果として、いわゆる政治的処分の意味を持つた事。
(2) この処分が本人からの事情聴取の手続きをふまず、「紛争中」にその一方の当事者である医学部教授会のみの判定でそれを正当化する十分な理由なしに一方的に行なわれた事。(全部署名)
1 粒良君その他一一名の学生の名誉と人権が深く傷つけられた事に対して、大学当局は謝罪する。(全部署名)
3 大学当局は、大河内総長はじめ昨年三月一一日当時の全評議員が、この処分の決定に参加した責任上辞任した事を確認する。(基礎科学科のみ不署名)
4 評議会はこの処分に関し直接重大な責任をもつ豊川・上凪両教授の退官につき、適切な措置をとる。(全部署名)
二、文学部処分について
大学当局は、この処分が従来の「教育的処分」という発想に基づいて行なわれた点において、旧来の処分制度への反省の契機となつたことを認め、新しい処分観と処分制度のもとで再検討する。(全部不署名)
三、追加処分について
1 昨年一月二九日以来の闘争の中で行なわれた学生、院生のストライキをはじめとした抗議行動については、大学側に重大な誤まりがあつた以上、大学当局は処分の対象としない。(全部署名)
2 大学当局は林文学部長らに関する事件についても、旧来の処分制度で処分することはせず、新しい制度のもとでこれをとりあげる(全部不署名)
四、今後の処分制度
1 新しい処分制度については、今後相互で検討する。但し、大学当局は、その原則として、客観的に学生、院生の自治活動への規制手段としての役割を果してきた「教育的処分」という見地をとらぬこと。又学生、院生の正当な自治活動への規制となる処分は行なわない事、且つその手続きにおいては、一方的処分はしない事を認める。(全部署名)
2 新制度が確立されるまで、右の条項を前提とした暫定措置については、今後双方が協議、交渉する。(経のみ不署名)
五、警察力導入について
1 大学当局は、六月一七日の警察力導入が講堂占拠の背後にあつた医学部学生の要求を理解し、根本的解決をはかる努力をつくさないままに、もつぱら事務機能回復という管理者的立場にのみ重点をおいてなされた誤まりであつた事は認める。(全部署名)
2 大学当局は六月一七日の警察力導入が人命の危険、人権の重大な侵害ないし緊急の必要という基準に該当しなかつた事を認める。(経、工のみ署名)
3 大学当局は、原則として学内「紛争」解決の手段として警察力を導入しないことを認める。(全部署名)
4 緊急の場合の警察力の導入の問題については、今後両者の間で検討する。(法・経・工・教養学科のみ署名)
六、捜査協力について
1 正規の令状に基づいて捜査を求めた場合でも大学当局は自主的にその当否を判断し、その判断を尊重することを警察に求めるという慣行を堅持する。又警察力の学内出動の場合もこれに準ずる。(全部署名)
2 学内での自治活動に関する警察の調査や捜査については、これに協力せず、警察の要請があつた場合にも原則的にこれを拒否する。(全部署名)
七、青医連について
大学当局は、青医連を正規の交渉団体として公認する。その詳細については医学生、研修医が今後検討するものとする。
(工のみ不署名)
八、「八・一〇告示」について
大学当局は「八・一〇告示」を昨年一二月三日に「大学問題検討委員会」を廃止した時点で、完全に廃止されたものと認める。(経、工・基礎科学科・教養学科のみ不署名)
九、学生、院生の自治活動の自由について
1 大学当局は、各学部の学生自治組織と東大学生自治会中央委員会、各系の院生自治組織と京大全学大学院生協議会を公認する方針をとる。(法・経・工のみ不署名)
2 大学当局は右の自治組織の団交権(大衆団交を含む)を認める方向で、その交要渉求に誠意をもつて応じる。但しその内容形態については今後話し合うものとする。(法・経・工のみ不署名)
3 大学当局は、「矢内原三原則」を廃止する方向で停止する。(全部署名)
4 大学当局は学部共通細則第八条、第九条、第十条、同取扱内規三、および四、掲示に関する内規など、学生、院生の自主的な活動を制限している条項の改正又は廃止について早急に学生、院生と交渉を開始する。(全部署名)
5 自治組織と大学当局とのあいだの責任者名の交換、連絡方法、学生、院生の自主的な活動のための施設の利用や掲示などに関する必要な定めについては、学生、院生代表と大学当局とのあいだで、当面の措置と今後の措置をとりきめる。(工・基礎科学科のみ不署名)
十 大学の管理運営の改革について
1 大学当局は、いわゆる「東大パンフ」を廃棄する。(全部署名)
2 大学当局は大学の自治が教授会の自治であるという従来の考え方が現時点において誤まりであることを認め、学生・院生・職員もそれぞれ固有の権利をもつて大学の自治を形成していることを確認する。(法・経・理・工のみ不署名)
3 大学当局は、大学における研究が資本の利益に奉仕するという意味では産学協同を否定するものであることを確認する。(理のみ不署名)
4 大学当局は、学生、院生、職員の代表を加えた大学改革委員会を設け、今後大学のあり方を検討する。(法・経・教養・基礎科学科のみ不署名)
<別紙二>
全共闘の所謂七項目要求
(1) 医学部不当処分撤回。
(2) 機動隊導入を自己批判し声明を撤回せよ。
(3) 青医連を公認し、当局との協約団体として認めよ。
(4) 文学部不当処分撒回。
(5) 一切の捜査協力(証人・証拠等)を拒否せよ。
(6) 1月29日よりの全学の事態に関する一切の処分は行なうな。
(7) 以上を大衆団交の場で文書をもつて確約し、責任者は責任をとつて辞職せよ。